Le Chevalier du Lion d'Or

ル・シュバリエ・デュ・リオンドールで起こる日々の出来事・・・
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下天のうちをくらぶれば


 「…思っていたより、楽しませてくれるな」


ポツリと漏らしたその言葉が余程気に障ったのか、あるいは依頼した調査があまりに物足りなかったのか…いやぁ、その両方だな。眼前の彼女は険しい表情と刺すような視線を投げていた。


「おやおやマリカ君、あんまり難しい顔をしていると老けるでゲスよ?」


出来の悪い冗談が更に彼女の感情を害したらしい。
溜息を短く一つつくと、途中報告に来ていたはずなのに最早こちらには一顧だにせず、淹れたてのオータムナルの芳香を楽しみ始めた。
やれやれ、建前とはいえ一応使用人だろ?ナオミ辺りが入ってきてこの前みたいな事にならないといいがな。


「さて…肩慣らしはこんなもので済んだか?次はそこの懸案について下調べをしてもらいたい」


机の上に山と積まれた、前回の二倍はあるであろう資料を指差す。
だがこの程度の未来は調査の段階で予期していたのだろう。一通りの書類に目を通すと肩を竦めて嘆息した。


「お望みの報告についての三分の二は、今の時点でできるわよ?なんならその先の調査もしておきましょうか?」


彼女が言うところの『目立たたないために』つけているという眼鏡を外しながら、挑戦的な目つきと怜悧な声をこちらに向ける。まぁ確かにその容姿では、それをつけてないと目立つだろう。


「それは頼もしいな…それじゃあ並行してコレの調査もお願いしようか」


一枚の資料を手渡す。
その文書を読み終えるまでの僅かな時間、片眉が小さく跳ね上がるのを見過ごす事はできなかった。
やはりマリカの目から見ても、それは不審ないしは異端なものに映るらしい。


「過重労働をさせてくれるわね。…こんな所にまで万全を期すなんて、そんなに注意するべきものがこの館にはあるのかしら?」


マリカの声が警戒と疑心を孕む。


「さぁな…だがおそらく予想外の事態というのは起こるのだろう。なにせ曲者が多い館だからな。だが…」


腕を投げ出したままソファーに深くもたれ、真っ直ぐ前を見据える。
一刹那、自問自答を試みたが拒否された。
そうだ、もう決心した事だ。


「勝つのはオレさ」


引き返せない。
そんな決心を察したのか、それとも長居は無用と感じたのか。
必要な書類をまとめて退出の用意を整える。
だがドアノブに手をかけた時、背を向けたままマリカは立ち止まった。


「大した自信ね。どうせ負ける事なんて少しも考えていないんでしょ?だけどもし…」


わずかにこちらを振り向いて言葉を紡ぐ。
窓から差し込む月明かりがあるものの眼鏡で表情は見えず、歪む口の端を青白く照らすだけだった。



「もし私があなたのその遠大な計画を抱えて、たとえばそう…あなたが敬愛して止まないお兄様の所や、あの有能執事さんの所に駆け込むような事があっても、今みたいな自信を保っていられるかしら?」


月に雲でもたなびいたのか、夜陰が濃くなる。
視線を落とせば足元まで闇に覆われていた。


「…悪くないな」


相変わらず、マリカの顔は見えない。


「長い付き合いだ、お前に裏切られて終わるような事があればオレもそこまでの男だ」


ドアが開いて、軋む音が暗がりに響き渡る。


「…馬鹿らしい」


おいおい、静かに出ていかないとあの有能執事さんあたりに気づかれるぞ?
ソファーにもたれていたい自堕落な気持ちを抑え、立ち上がり机に向かう。
返事を書かなければいけない手紙が山積しているからだ。
| 次男 クライド・ハンニバル・ドーソン | 22:47 | comments(0) | - |
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