Le Chevalier du Lion d'Or

ル・シュバリエ・デュ・リオンドールで起こる日々の出来事・・・
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ドーナツホール


───要するに、アレなんだろうな・・・


馬車に揺られながら、推し量る。
外の景色を眺めるような事はしない。
この数か月、ネフィラ・クラヴァータ周辺を行き来することが多く、
辺りの景観にはすっかり慣れてしまったからだ。



───オレはいつまでも『みすぼらしくて、ガリッガリ』で・・・



ラ・トリステス・ドゥ・レトアールで過ごした・・・
いや、過ごしたというにはあまりに日常とはかけ離れている。
15歳の頃に経験した、短いながらも鮮烈な監禁生活を思い出す。
暗く、重く、辛酸に満ちた日々。



───『あの』サリヴァンちゃんと『あの』レディ・Mの息子で・・・



最後に見たのは一年前という父親の顔と、八年前という母親の顔を
思いうかべる。
あの人達がそういう仲だった、という事実がどうにもピンと来ず、
二人でいる姿を想像してみる。
脳裏に出来上がったシーンはあまりに滑稽で、思わずプッ、っと
吹き出してしまった。



───きっと喧嘩をしても自分から謝るような事はせず、喧嘩自体が初めから
   ありませんでしたよ?なんて感じでお互い振る舞ってたんだろうな。



ひとしきり妄想をし終えた所で、本来の推量から逸脱している事に気付く。
どうにもオレの周辺には退屈しない強烈な人が多くて困る。



───つまり・・・マダムにとって、オレはいくつになっても
   『心配になっちゃうクライドちゃん』なんだろうな・・・



抱えた紙袋の中いっぱいに詰め込まれた、溢れんばかりのドーナツを
眺めて苦笑する。
さすがにあの頃とは違い、オレも標準くらいの体型にはなっていると
思うのだけれど。



ウィルマ様の後押しもあり、この数か月は各界の著名人との顔繋ぎに
奔走させられる事となったが、自分一人で夜遊びをしていた頃とは違い
流石に彼女の人脈は「一流」そのものだった。



今まで見てきた景色がいかに狭く、広い世界の一部でしか無い事を痛感した。
「ドーソン家から見た社交界」ではなく「社交界の中のドーソン家」という
視点を感じる事はこの数か月で得たなによりの経験に思えた。



が、あまりの忙しさにリオンドールの事を思い出さない日も増えてきた。
本末転倒も甚だしい有り様だったが、そんな折に一通の手紙が
ヘンリーから届いた。



特に誰にも居場所は知らせていなかったのだが、
さすがにウチの敏腕執事は有能らしい。
その有能さも、こうして外から見てみると新鮮に思えた。



手紙に記された内容・・・アルヴァの誕生日パーティーをきっかけに、
オレは一度リオンドールへ顔を出す事にした。



ウィルマ様とマダム・ロワイエに暇を告げ、それでは行って参りますと
出発をする際に『それじゃあコレを持っていきなさい!』とマダムに
渡されたのがこの大量のドーナツだ。



「いくらなんでも・・・こんなには食べられないだろ・・・」



心配性な保護者の気持ちを無下にする事も出来ず、一つ掴んで噛り付く。



「ん・・・?いけるな、これ」



マダムの手作りなのかシェフが作ったものなのかはわからないが、
ドーナツは意外と後を引く味で、あっという間に一個を平らげた。



「リオンドールに到着するまでまだまだ時間がかかりそうだし・・・
 もしかして全部食べちゃうかもなぁ・・・うん、美味い」



とりあえずもう一個食べるかと紙袋に手を突っ込む。



「アレ・・・」



そうして手に取った二個目のドーナツは、妙に歪な形をしていた。
中心の穴はキレイに円を描いているのに外側は凹凸が多くデコボコしている。



「・・・なんだか、ドーソン家みたいだな」



ドーナツの部分はオレ達四兄弟。
円環の内側はドーソン家。
それは言い換えれば名声、資産、人脈、使用人達。
今は四兄弟の内誰のモノという訳でもなく、ドーナツに包まれてそこにある。
だけど・・・



「・・・当然、こうなるよな」



ドーナツに噛り付く。
円環は崩れ、ちょうどアルファベットの「C」のような形になった。
その瞬間、内側にあったはずのドーソン家は外に漏れだした気がした。
ドーソン家を保つには、ドーナツの形を保たなければいけないのだ。



「だけど、後継者は一人だ」



後継者争いに勝つという事は、ドーナツに噛り付くという事だ。
四分の一に残ったドーナツに自分がなり、かつドーソン家が壊れないよう、
噛り付く前のドーナツの形でなければならない。



「矛盾、だな」



後継者争いという事態そのものが、ドーソン家を傷つけている。
仮に四兄弟の内の誰かが後継者に決まったとしても、散々家中を掻き乱して
ドーソン家の力は低下するだろう。
邪推すれば後見人の内の誰かにドーソン家を乗っ取られる事も
あるかもしれない。



「全く、父上も厄介な死に方をしてくれたもんだよなぁ・・・」



いや、あらかじめそんな内容の遺言状を遺していた
用意の良さを考えると・・・



「・・・ドーソン家の名誉どうこうより、あの世から眺めて
 楽しむ方を選んだか・・・」



考えようによってはオレ達の力量を試しているとも考えられるが・・・
まったく、ひねくれた人だなぁ。



「・・・でも、負けませんよ、オレは」



三個目のドーナツを手に取る。
これが貴方が天国だか地獄だかから突きつけてきたオレ達への挑戦ならば。
妾腹であろうとドーソン家を継ぐに足るか見究めたいならば。



「オレの答えは、こうです」



大きく、力の限り、口を開ける。
二個目よりも更に大きなドーナツを一飲みで口の中へ。



「ふぉうけぃひゃのじゃは、きゃにゃらずいひゃだきまふ」



そうして、貴方と、自分に勝ちます。



「しかし・・・」



心配事が無いわけではない。
そうそう上手く事が運ぶとは思っていない。
第一に・・・



「・・・アルヴァに、なんて切り出そうかなぁ・・・」



兄上を出し抜くより、こっちの方がよっぽど難問だ。



「ん〜・・・」



無意識に紙袋に手を伸ばす。
四個目のドーナツに噛り付こうとして、ふと、手が止まる。



「・・・とりあえず、残りはアルヴァへのお土産にしよう」



ドーナツを紙袋に戻し、そっと袋を閉じた。
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